とまとと tomatoto小さな村の小さなゲストハウス兼、エントランスが誕生しました。

©tomatoto

とまとと tomatoto

旅するおむすび屋 菅本香菜
in hidaka village
Eat & Stay とまとと
0°
hidaka village
日高村産フルーツトマト meets おむすび!
拒食症を乗り越えた女性が、食を通して伝えたいこととは。
コラボ 2021.04.21
「旅」と「おむすび」--

一見遠い言葉同士をつなぎ合わせ、「食の楽しさと大切さ」を伝える一人の女性がいます。

その人の名は菅本香菜さん。

パートナーの吉野さくらさんと共に「旅するおむすび屋」の屋号で全国を巡り、その土地の食材を使っておむすびを結ぶイベントや、中高生向けの食育ワークショップを開いてきました。
弾けるような笑顔とおいしそうにおむすびを頬張る姿が印象的な菅本さんですが、実は中学高校の6年間にわたって拒食症に苦しんだ過去をもっています。

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福岡県北九州市に生まれた菅本さんは、幼い頃から本に親しみ、小学1年生の頃から自分で絵本や詩などを書いていました。また好奇心も旺盛で、旅やキャンプが大好きな子どもだったそうです。学校でキャンプのお知らせがあればほぼ全て参加していたし、子ども向け雑誌の懸賞に応募して、奄美大島の無人島で全国の子どもたちとキャンプをしたことも。

家の中で一人読む本も、青空の下でみんなと繰り広げる冒険も、自分の世界を広げてくれるものとして、彼女に欠かせない存在でした。



食べるのが、怖い。
明るく行動的だった一方、人に気を遣いすぎるところがあり、友達付き合いにストレスを感じやすかったという菅本さん。友達といるとビクビクしてばかりで、自分に自信を持てなくなった中学2年生の頃、ふと言われた「足太くなったんやない?」の言葉......

落ち込んでいた気持ちにその言葉が重くのしかかり、ダイエットを始めることにしました。
はじめは軽いダイエットのつもりが、体重が減ることに異常なまでに喜びを感じるように。同時に食べることが怖くなり、身長158cmで体重は23kgにまで減少。医者に「いつ死んでもおかしくない」と言われる状態に陥りました。
「家族はとても心配してくれて、どうしたら私が食べられるか考えてくれたのですが、当時の私にとってはそれがすごく苦しかった。食べないといけないのは分かっているけど食べられない。食べるのが怖いから、食べても食べなくても罪悪感...。家族と食卓を囲むことも嫌になってしまいました」
学校にも家庭にも居場所がない。普通になりたい、ただ当たり前の生活を送りたい...その苦悩と孤独は、10代の女の子が抱えるには重すぎることは、誰の想像にも容易いことです。

療養のための休学を経て2度目の高校2年生となった彼女に転機が訪れます。それは、クラスの人気者だった女子生徒との出会い。

その子は菅本さんのことを、"年上のクラスメイト"でも "拒食症と闘うクラスメイト"でもなく、"一人の人間・菅本香菜"として向き合ってくれました。食べられなくても、「食卓で一緒に過ごす時間を楽しむ」ことを思い出させてくれる友人のおかげで、食べることへの恐怖心が薄れていきます。
このことをきっかけにぐんぐんと症状が改善し、大学進学時には見事拒食症を克服。菅本さんは当たり前の生活を取り戻せたのです。
しかし、菅本さんの苦悩は根本から消えたわけではありませんでした。

拒食症の過去が恥ずかしくて周囲に打ち明けられず、やっぱり自信が持てない日々。一見楽しい大学時代を送っているかのように見えた彼女には、常に「拒食症だった自分」というコンプレックスが立ちふさがり、新しいことにチャレンジできないでいたのです。

「死」と向き合い、どう生きたいかを深く考える。
その考えが変わったのは、2011年の東日本大震災。そしてその直後に母親がくも膜下出血で危篤状態に陥ったことでした。
「『死』と向き合った時に、改めて自分が生きていることは当たり前じゃないと考えさせられて、どう生きたいかを深く考えるようになりました。同じ頃、信頼できる先輩に過去の経験も含めて話した時に、『その経験があるからこそ、あなたにできることが絶対あるよ』と言ってもらえたんです。私は闘病を通して、『食べることは生きること、生きる喜び』ということを心から実感しました。これは私だからこそ気づけたことであり、伝えられることかもしれない。そう思い、「食」を生き方の軸に据えようと決めたんです」
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それからの菅本さんは、新しい世界にどんどん足を踏み入れます。震災復興支援のインターンシップ、新卒入社した不動産会社での飛び込み営業、「食べる通信」熊本版の立ち上げ、クラウドファンディング運営会社でのプロジェクトサポーター...
その時どきに置かれた環境で最大限の努力をしながら、次なるフェーズを見据えたアクションを起こしてきた彼女。そんな中で、新潟を拠点にお米を学んでいた吉野さくらさんに出会います。

海苔漁に出向くほど海苔が好きな菅本さんと、お米に詳しい吉野さん。「海苔とお米とくればおむすびでしょう!」一瞬で意気投合した2人は、2017年「旅するおむすび屋」を立ち上げました。
「誰もが身近なおむすびを通して、食の楽しさと大切さを伝える」「生産者の思いや地域の魅力を発信していく」。この2大ミッションのもと精力的に活動を続けています。

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制限の中で見えてきたもの。
コロナ禍で以前ほど活発に動けない今。
イベント系の仕事は激減し、これまで日常だった旅も思うようにできなくなる...旅するおむすび屋にとって、様々な制限の中でプロジェクトを展開することが難しい局面も多々あったのでは?と思いきや、よかったこともたくさんあると菅本さんは語ります。その中でも、特に2つの大きなよかったことを教えてもらいました。

まずは「次はどんな旅に出たいか」を真剣に考えられたこと。

これまでは旅することがあまりにも当たり前で、目の前の旅をこなすようになっていた部分があったそう。しかしコロナを機に、改めて自分にとっての「旅」の意義を見つめ直し、その結果、「全国のおむすびをきちんと学んで書籍を制作したい」という新たな目標ができました。
その目標を実現すべく、菅本さんは2021年「47都道府県のおむすびを学ぶ旅」に出る予定です。
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これまでの4年間、全国各地でおむすびを結んできた菅本さんですが、今回の旅は、地域の知恵や想いが詰まった"おむすび"をさらに深ぼるために、日本中のおばあちゃんやローカルシェフなどを訪ね学ぶ旅です。そしてその旅の様子や学んだおむすびのレシピを書籍にまとめるべく、クラウドファンディングにも挑戦。その想いに多くの人が共感し、見事ゴールを達成することができました。
クラウドファンディングの募集
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そしてもうひとつのよかったことは、「旅をしなくてもできる仕事を作る大切さ」に気づけたこと。この先、再び旅ができなくことがあり得る中、旅をしなくてもできる仕事を育ておこうと、絵本作りや商品開発などに取り組んでいます。
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その取り組みの中で生まれたのが、日高村と旅するおむすび屋がタイアップした「トマトの炊き込みご飯セット」です。
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日高村産フルーツトマトを使った炊き込みご飯の素と、地元のお母さんたちが開発したトマトのお味噌、お米、そしておむすびを題材にしたオリジナルの絵本がセットになっています。

絵本では、菅本さんが何度も日高村に足を運んで感じた村の可能性や空気感を、やさしい絵と言葉で表現。トマトが苦手な主人公・あいこちゃんと、おむすびの妖精"おむすびお"の交流を通して、新しいことにチャレンジする大切さや、その中で仲間と出会っていく喜びが描かれています。
絵本でトマトの世界にふれ、おむすびを結んで、食べて、親子で食卓を囲む楽しさを体験できる、そんな商品が誕生しました。
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過去は書き換えられない。これまでのストーリーをどう活かすかは自分次第。
おむすびに世界を広げてもらい、「自分の"好き"や"使命"を仕事にできる」ことを日々教えてもらっているという菅本さん。

「誰かが言ったから」「なんだか時代の流れのような気がするから」といった軽い気持ちではなく、「何を優先して生きていきたいか」を自分ととことん向き合ったうえで決めていけば、どんな状況でも楽しめるし、周りの人も応援してくれることを実感しています。

そうした人との出会いや世の中の流れで旅するおむすび屋の仕事の幅は広がっても、「食の大切さや楽しさを伝えていきたい」という根っこはブレません。

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そんな菅本さんにとって、「生きる」とはなんでしょうか?
「生まれてから死ぬまでの物語です。私が主人公だけど、私だけでは絶対に完成しない。書き換えることはできないけど、これまでのストーリーをどう活かしていくかは自分次第。どんな人とどんな物語を描いていきたいか、自分自身が楽しみながら書き進めていきたいと思っています」
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食に苦しめられ、食に救われた彼女だからこそ辿り着けた今。そして切り開かれていく未来。

菅本さんはこれからも、小さな手のひらにたくさんの愛を込めて、その土地、その人、その食べ物、ひとつひとつの物語に向き合い、結んでいきます。