とまとと tomatoto小さな村の小さなゲストハウス兼、エントランスが誕生しました。

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とまとと tomatoto

in hidaka village
Eat & Stay とまとと
日高村のトマトは冬が旬
シュガートマトのおいしさの秘密を探る
  • トマト団地

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hidaka village
シュガートマトという名前で売り出されている糖度8度以上のトマトは、日高村が誇る特産品だ。おいしいトマトが育つには寒暖差が大事なのだが、山に囲まれたこの地は朝晩と日中の温度差が大きく、昔からトマトの栽培が盛んだったそうだ。そこで「ここでしか作れないトマトを!」と村をあげて研究改良を重ね、昭和60年にはこれまでになく甘く味の濃いトマトの栽培に成功。このシュガートマトの産地として、今では全国に知られるようになった。_O7P5386.jpg
日高村の日下川沿いの一帯には、トマト栽培のハウスが並ぶ「トマト団地」が広がる。その中のひとつ、濱田農園では、900坪のハウス内に12,000本のトマトを育てている。ハウスの中に入ると、トマトの青い香り。それは実からというより、茎や葉から発する強いフレッシュな匂いだ。
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農園の主人である濱田善久さんを訪ねると、もう朝の収穫を終えて、トマトの長く伸びた茎を上に引き上げる誘引作業をしていた。トマトの茎の長さは約8m。最長で10mにも成長する。
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ところでトマトといえば夏が旬のイメージだが、シュガートマトの出荷は11月から6月まで。しかも最も美味しいのは1月、2月だという。ハウスの中を案内してくれながら、濱田さんがその秘密を教えてくれた。 「冬トマトは赤くなるまで60日、春トマトは40日。つまり、冬トマトの方がじっくりと熟するから味が濃くなるわけ。それに皮が硬くて実がしっかりとしている。春トマトの方が柔らかい。数字的に糖度は冬も春も同じなので、好みにはなるかもしれないけれど、冬トマトのほうがおいしいと思う」
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ハウスの中で働いているのは人だけではない。トマトの受粉を助けるハチだ。この時期の朝、ハウスの中は17度くらい。日が上がって室温が24度以上になると花粉が出る。そうすると、ハウスのなかの巣箱から働きバチが出てきて花粉集めに精を出す。
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「雄しべの先がちょっと色が変わっているでしょう。ハチが花粉を集める時に雄しべを噛んだあと。こうなっていれば受粉完了ということ」 そんな話を聞くと、広いハウスの中を静かな羽音を響かせて飛び回っているハチたちが愛おしく感じられる。都会暮らしでハチを見れば、怖いな、イヤだなという気持ちになりこそすれ、愛おしいなんて思いもしないのに、このハウスのなかを飛び交うハチのことは、「おいしいトマトのために、がんばれクロマルバチ!」と応援したい気持ちになってくるのだ。
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トマトの様子をチェックしていた濱田さんが、「これはおいしくなるトマト」と指差したのはまだ青々としたトマト。そのポイントはヘタの周りの濃いグリーンの部分だ。ベースグリーンといって、この濃いグリーンのあるトマトは甘くなるという。
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「もともとトマトの原産地は乾燥した過酷な環境。だから、おいしく育てるには水分は少なめがいい。その水加減が難しい。ハウスの中も場所によって環境が違うし、トマトも1本1本違うから、目が離せない。経験とカンが大事。水やりも温度管理も自動になったけど、機械に任せにはようせんのでね」
と、濱田さんはトマトへの愛情を語る。そこへ奥さんが、「この人、トマトに声かけてるの」と教えてくれた。なんでも毎朝ハウスに入るときには「おはよう!」、帰るときは「頼むでー!」とトマト達にあいさつし、調子の悪いトマトがあれば「大丈夫!」と励ますんだそうだ。「トマトは、手間も声をかればかけるだけ応えてくれる」と、ちょっと照れ臭そうに、でも自信を持って濱田さんは言った。
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収穫したトマトはハウスで数日追熟し、出荷する。その中から「とっておきのトマトがあるから食べ比べてみて」と出してくれたのは、他のまん丸いトマトと違って楕円形で、しかもヘタの部分がぼこぼことしたトマト。
「ワラジとかナガとかオニミって呼んでるんだけど、これは形が悪いから規格外になっちゃうんだよね。でもすごく味が濃いくておいしい。冬の時期だけ、花房の一番内側に時々できるレアなトマトなんです」
ルックスはいびつでも、味はピカイチ。その秘密を知ってる人にとっては特別なトマトだから、頼まれて送ることもあるそうだ。
「せっかく育てたトマト、しかもおいしいんだから、なんとかこれも、ちゃんと届けられたら、と思っているんですよ」と、濱田さんはかわいい我が子の売り出し方法を考え中だ。
濱田農園は家族経営。濱田さんは2代目だ。若い頃は音楽の道を志して日高を出て暮らしていたが、約20年前にもどり、トマト農家の道に進んだ。その傍ら、今もミュージカルの演出や作曲といった音楽活動を続けている。「ハウスで作業していると、いいメロディが浮かんだりもする」とのこと。
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6月になってシーズンが終わると、ハウスの中は空っぽになる。そして夏の強い太陽でハウス内を温め80度以上にしてサウナ処理をする。さら地面をビニールで覆って土を高温にして熱処理をする。農薬を使わず自然の力を借りた殺菌消毒だ。その間は、お休み......かと思いきや、濱田さんにとっては音楽活動の期間であり、「冬から春はトマト、夏は音楽。休みはないよね」と笑う。
「元気で明るく愛情深いこの人の作ったトマトを食べたい!」。濱田さんの話を聞いていると、そんなことを思わされるなあ、と思いながら、トマトの香りに満たされたハウスを後にした。
【聞き手・文=川瀬佐千子(編集者) 写真=宮川ヨシヒロ(フォトグラファー)】
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